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真夜中のイーゲル

 夜中の1時半、ハナがもの言いたげな目でジトーっとこちらを見つめている。「すみませんが、もう一度用を足しに行ってもいいでしょうか」の合図である。暑くて水をガブガブ飲むから、どうしても我慢が出来なくなる。ダルメシアンは膀胱が弱いと聞いているので、面倒だけど連れて行くしかない。もっとも面倒なことをしてくれているのは夫で、私は「行ってあげなよー」と言うだけだ。
 ところが、今ハナを連れて出たと思った夫が、息をきらせてダッシュで駆け戻って来た。
「おい!早く早く!」と急かされて、私も一緒に外に出る。すると、道の真ん中にイーゲル(針ねずみ)が。そういえば去年の今頃、夫と娘が同じ場所でイーゲルを見ている。この辺りでは、夏の夜の風物詩なのか。
 イーゲルと言えば、ドイツでは子供の歌にも登場するし、絵本やぬいぐるみでもお馴染みの身近な動物。なのに今まで、生きているイーゲルを見たことがなかった。変わり果てた姿となった可哀想なイーゲルが、アウトバーンに横たわっているのを数回見たことがあっただけ。
 カメラを取りに引き返している間に逃げちゃうかも、というのは杞憂であった。

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 考えてみれば、全身が鋭い針で覆われているのは、敵から身を守るため。そんなことしてないで逃げちゃえばいいのに、と言っても、それが出来ないトロい動物だから、こんな風に進化を遂げてきたのだろう。
 それにしても、この針、本当に効果てきめん。興味津々に顔を近づけたハナは、まず鼻面にチクッ。一度は飛び退いて、次に恐る恐る出した手もチクッ。慌ててひっこめた後は、触らぬ神に・・・という感じで遠巻きに見ているだけ。けれど、犬にちょっかい出されるわ、暗い中でフラッシュたかれるわで、すっかり腹を立てた模様のイーゲルくん。まーるく針ボールになったまま、動こうとしない。

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「もうちょっと顔が見える写真を撮りたかった〜」と私が言うと、あろうことか、夫がイーゲルくんを足で突っついた。
「あー、ヒドイ! 蹴った飛ばした蹴っ飛ばした!」と大騒ぎする私に、「ちょっと転がしただけだろ」と夫。確かにイーゲルくん、しっかりと体を丸めたまま、ダンゴムシのようにコロコロと転がっている。もう、どちらが頭でどこに足があるのやら、全然分からない。
 そのまま私はハナを連れて家に帰ったのだけど、夫は「カメラ貸せ」と言って、しつこくその場に残った。しばらくして帰ってくると「ちょっと離れていくフリしてそばから見てたら、また顔を出したよ」と得意満面の夫。

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 来年の今頃、私たちはもういない。けれど、こんなヒドイ目にあったイーゲルくんも、もうここにはやって来ないかもしれない。
by jukali_k | 2006-07-18 21:56


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